ぬいぐるみ劇場、今夜も開演!
団地の一室でひらかれる“秘密の観客”たちへ
大阪市のとある団地の一室。
お昼すぎ、近所で雷が鳴りはじめ、洗濯物を取り込む人影があわただしく行き交う中、とある部屋のカーテンはぴたりと閉じられたまま。
そこは、小学2年生の姫乃(ひめの)ちゃんのおうち。
「今日の夕立で、遠くには行けないから」と、姫乃ちゃんは自分のぬいぐるみたちをずらりと並べて、小さな舞台をひらいていました。
演目は、姫乃ちゃん作・演出・主演のオリジナル劇「くまの警察官と、アイス泥棒を追え!」。
毛布を折ってつくった舞台の上には、手作りの小道具や、トイレットペーパーの芯でつくったパトカーも登場。
観客席には、ふかふかのぬいぐるみたちが整列し、みんな静かに“鑑賞”中です。
途中、カーテンの隙間からちらっとのぞいたのは、近所に住む白黒模様の猫。
去年から姫乃ちゃんの家にたびたび遊びに来ている“劇場常連客”です。
「アイス泥棒にゃーん!」という姫乃ちゃんのセリフにぴくりと耳を動かし、しばらく見つめてから、そっと窓辺に座りました。
終演後、姫乃ちゃんはにっこりと一礼。
観客席からはぬいぐるみたちの無言の拍手と、猫のあくび。
雷は止んで、外に夕焼けの光が差し込んできました。
「次は『花火とおまわりさん』やるから、また見にきてね」と姫乃ちゃん。
誰にも知られず、でも確かに行われた、小さな夏の劇場。
今日もどこかで、「ひとりと何匹」の舞台が、静かに幕を開けているかもしれません。